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日進月歩

日進月歩

独りぼっちの馬と裏切り者の鹿・4

「どうしてなの、菜留子?!」

菜留子から、冗談にしてはたちの悪いメールを貰った後、樹里はすぐ
そこまで遠くない菜留子の家に駆け込んだ。
電話やメールじゃ埒があかないと判断したからだ。

菜留子のお母さんは嫌な顔をしながら樹里を菜留子の部屋まで通してくれた。
あんなに良くしてくれた長谷川のおば様が。
樹里には訳が判らなかった。
何故こんな事になったのか。
一体何が起きているのか。
もう、菜留子に聞くしかなかった。

「…南岡さんって知ってる…??」

樹里が17回「どうしてなの?!」と問い詰めたときだった。
観念したように菜留子が口を開いた。

「…え…沙咲のこと…??」

驚いた。
何故ここで沙咲の名が出るのか。
ついに樹里の思考回路では追いつけなくなってしまった。
何故。
あんなに沙咲には会うなと言っておいたのに。
何故。
何故菜留子が沙咲を知っているのか。

更に問い詰めると菜留子は何故か周りを気にしながら
それでも、少しずつ話してくれた。
全てを要約すると、こうだ。

どうやったのか、沙咲は菜留子の住所を調べだして
家までやってきたらしい。
大方、自分と菜留子と同じ中学だった金沢から聞いたのだろう。
あいつは、沙咲に惚れたといっていたし
恐らく聞き出すのは容易だったに違いない。

当惑する長谷川のおば様をよそに沙咲は
「樹里さんのお友達なんです。
 菜留子さんに会わせて頂けませんか。」
と言ったらしい。

樹里の名前が出たので、おば様は菜留子を呼んだ。
そして、菜留子にも同じことを言い
部屋に、と勧める菜留子の誘いを軽く押しのけ
おば様がまだいる中でとんでもないことを話し始めた。


「…万引き…?……私が?」
「うん…あの、南岡って人、そう言ったの。
 樹里が…その…万引きの常習犯だって。
 友達なんか、即座に辞めた方が身のためだ…って。」
そう、菜留子が言い終わったとたん、菜留子の部屋のドアが開き
外で盗み聞きしていたのか長谷川のおば様が入ってきた。

長谷川のおば様は両親が教師というとても厳しい環境に育ち
実際の所、菜留子の通う私立高校の教頭をしている
長谷川のおじ様と結婚するまでは自身も先生をしていた。

つまり、とても厳しい人で
世間体が家宝のような人なのだ。
そんな人が、万引き常習犯の不良娘を
大事な一人娘と親友にしておくはずが無かった。

入ってくるなりおば様は、泣き崩れて
「樹里ちゃん、お願いだからこの子とはもう会わないで…」
当惑する樹里に菜留子は
「ごめんね、樹里。」
と申し訳なさそうに謝った。

ヒステリックを起こしかけたおば様を何とかなだめて
菜留子は樹里の家の近くまで歩いて送ってくれた。

「樹里?
 ごめんね。あのメール、お母さんが送ったの。」
「おば様が?」
「そう。あの、南岡さんって言う人が帰るなり
 ヒステリック起こして。
 お父さんに知られる前に片付けたかったんだよ。」

少しだけ会話が途切れた後
菜留子はこんな事を言ってくれた。
「樹里?」
「…え?」
「私達、どんな事があっても、親友だよって
 誓ったよね?」
それだけなのに。
菜留子が口にしたのはそれだけなのに。
樹里は顔が熱くなって怒鳴ってしまった。
「そうよ!!
 なによ、今更取り消そうって言うの?!」
怖かった。
菜留子に「そうよ。」と、「さよなら。」と言われる事が。
目の前が真っ暗になって落ちていく。
何処に着くこともなくただ落ちていく。
気持ち悪い。
頭の中が全部混乱して。
気持ちが悪い。

馬鹿みたいに怒鳴った樹里に
菜留子は少しだけ驚いた顔をしてから
ふっと微笑んで言った。

「違うわ、樹里。
 その誓いを忘れないで欲しいの。
 私はね、小さい頃から樹里の傍に居るでしょ?
 だから、信じられないのよ。」
菜留子は一瞬戸惑って更に言葉をつなげた。
「樹里は、万引きするような子じゃないわ?
 あんなの…嘘でしょ?」

どれだけその言葉が有難かったか。
樹里は涙がこぼれそうになりながら
「うん。当たり前よ。
 必ず、デマだ、って証明して見せるから。
 菜留子?信じててね。」
「うん、もちろんよ。
 さっきはごめんなさい。
 お母さんが聞いてたかもしれなかったから…」
「ううん。
 菜留子が味方なら、大丈夫。
 あ、もうここでいいや。」
「そう。
 じゃあ、今度会うときは、親友に戻れるように。
 それから、メール、しちゃ駄目よ?
 お母さんが、しっかり握ってるの。携帯。」
2人で顔を見合わせてふふっと笑うと
「分かった、ありがとう。
 じゃあね。」

そうやって手を振ったのに2人とも其処から離れなかった。
それから、また顔を見合わせて、あははっと笑うと
しっかりお互いを抱きしめてから
今度こそさよならした。


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